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「取引先からのメールが、隣の人のパソコンには届いているのに、私のパソコンには来ていない」。こういう相談を受けることがあります。メールが届いたり届かなかったりするので、最初は「迷惑メールに入ったのでは」「相手が送り忘れたのでは」と疑われがちです。
先日対応したあるお客様のケースでは、原因はメールソフトの故障でも、回線の不調でもありませんでした。1つのメールアドレスを、複数台のパソコンで同時に受信していたこと、それ自体が原因でした。この記事では、なぜそれで届かなくなるのか、現場でどう直したか、そして会社の代表アドレスをどう運用すべきかを書きます。
何が起きたか:同じアドレスなのに、片方にしか届かない
このお客様は、会社の代表アドレス(info@のようなアドレス)を、事務の方が使う複数のパソコンで受信していました。取引先からの大事なメールがそのアドレス宛に届くのですが、あるパソコンでは受信できているのに、別のパソコンでは一部のメールだけが受信できない、という状態でした。
「全部届かない」なら設定ミスを疑いますが、「一部だけ届かない」のがこの症状の特徴です。しかも、届かないメールに共通点がありません。日によって、相手によって、届いたり届かなかったりします。
調べたこと
遠隔で2台のパソコンのメール設定を確認したところ、次のことが分かりました。
- どちらのパソコンも、メールの受信方式はPOP(ポップ)だった
- 問題のアドレスは、どちらのパソコンでも「サーバーにメールを残す」設定になっていた(一定日数で削除)
- 届いていないメールの宛先を、お客様に実際のメールで確認してもらったところ、すべて代表アドレス宛だった
- その代表アドレスは、2台どころか合計4台のパソコンで受信していた
- 届かない側のパソコンは、代表アドレス以外にも8個のアドレスをPOPで受信していた
最初に疑ったのは「どれか1台が、サーバーにメールを残さない設定になっていて、受信した瞬間にサーバーから消している」というパターンでした。これは本当によくある原因です。ところが今回は、確認した範囲ではどちらも「残す」設定になっていて、この線は消えました。
原因:POPは「取りに行く」方式なので、台数が増えると取り合いになる
メールの受け取り方には、大きく分けてPOPとIMAP(アイマップ)の2種類があります。違いを乱暴にまとめると、次のようになります。
| POP | IMAP | |
|---|---|---|
| メールの置き場所 | 各パソコンが自分の中に取り込んで保管する | メールはサーバーに置いたまま。パソコンはそれを見に行く |
| 複数台で使うと | 先に取り込んだパソコンが持っていく。残す設定にしても、台数が増えると取りこぼしが起きやすい | どの端末から見ても同じ状態。既読や削除も揃う |
| サーバーの容量 | 取り込んだ分はパソコン側にあるので、サーバーは軽い | サーバーに溜まるので、容量の管理が必要 |
| 向いている使い方 | 1つのアドレスを1台で使う | 1つのアドレスを複数の端末で使う |
POPは、郵便受けに届いた手紙を、各自が取りに行って自分の机に持ち帰る方式です。「サーバーに残す」設定は、持ち帰るときにコピーを郵便受けに戻しておくようなものですが、取りに行く人が4人もいると、タイミングによっては戻す前に別の人が取りに来ます。POPという方式の構造上、台数が増えるほど取りこぼしが目立つようになります。
加えて、届かない側のパソコンは8個ものアドレスをPOPで受信していました。メールサーバー側には、同時に接続できる数の上限が設けられていることがあり、ここに引っかかって断続的に受信に失敗していた可能性もあります。こちらは断定まではできませんでしたが、「取り合い」と「接続の混雑」が重なれば、一部のメールだけが届かないという今回の症状は説明がつきます。
現場でやったこと
直し方は2つ考えられました。1つは、代表アドレスを全台IMAPに切り替えること。もう1つは、メールサーバー側で代表アドレス宛のメールを、各担当者のアドレスへ自動転送することです。今回は後者を採用しました。手順は次のとおりです。
- 2台のメール設定を遠隔で確認し、受信方式と「サーバーに残す」設定を調べる。ここで「残さない設定の1台が消している」という最有力候補を消しました
- 届いていないメールの宛先を、お客様に確認してもらう。複数のアドレスを受信しているパソコンでは、「どのアドレス宛が届かないのか」を特定しないと先に進めません
- その宛先を受信しているパソコンの台数を数える。ここで4台と分かり、POPの多台共有が原因だと判断しました
- お客様に原因を説明し、直し方を2つ提示する。IMAPへの切り替えと、サーバー側の自動転送です
- レンタルサーバーの管理画面で、代表アドレス宛のメールを担当者のアドレスへ自動転送する設定を入れる。これで、どのパソコンでも同じメールが確実に届くようになりました
IMAPへの切り替えではなく自動転送を選んだ理由は2つあります。1つは手軽さです。4台すべてのメールソフトの設定を変えて回るより、サーバー側の設定1か所で済みます。もう1つは過去のメールの保全です。POPで取り込んだ過去のメールは各パソコンの中に残っているので、そこには手を触れずに、これから届くメールの流れだけを変えられます。
お客様には、こう説明しました。「POPは、届いたメールを各パソコンが持ち帰る方式です。1つのアドレスを何台ものパソコンで使うと、取り合いになって取りこぼします。今回は台数が多かったので目立っていました。サーバー側で全員に配る、つまり転送する形にしたので、これからはどのパソコンでも同じメールが届きます」。
同じことを防ぐには
代表アドレスを複数台で受けるなら、POPは選ばない
今回の件で私が標準にしたのは、「同じアドレスを複数台、特に3台以上で受信する構成にPOPは使わない」という決め方です。選択肢は、サーバー側の自動転送か、IMAPです。どちらにするかは、次のような基準で考えてください。
| こういう会社なら | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 代表アドレス宛を、決まった数人が見られればよい | サーバー側の自動転送 | 各自は自分のアドレスを今までどおり受信するだけ。設定変更は1か所 |
| 担当者がよく変わる、スマホでも見たい | IMAP | 端末を増やしても設定を足すだけ。既読や削除も全端末で揃う |
| 「誰が返信したか」を全員で共有したい | IMAP、または共有メールボックスの仕組み | 転送だと、返信したかどうかが各自のパソコンにしか残らない |
「一部だけ届かない」と言われたら、最初に台数を数える
この症状で現場に行く前に、電話で確認しておくとよいことがあります。
- 届かないメールの宛先アドレスはどれか(複数のアドレスを受信している場合は特に)
- そのアドレスを、何台のパソコン・スマホで受信しているか
- 受信方式はPOPかIMAPか(メールソフトのアカウント設定画面で分かります)
- POPなら、「サーバーにメールを残す」設定になっているか、何日で削除する設定か
台数が3台以上でPOPなら、まずこの記事と同じ原因を疑ってよいと思います。逆に1台でしか受信していないのに届かないなら、迷惑メール判定や相手側の問題など、別の場所を見ることになります。届いたメールが本物かどうかの見分け方は、不審なメールの見分け方の記事で書いています。
設定変更の前に、過去のメールがどこにあるかを押さえる
POPからIMAPに切り替えるときにいちばん怖いのは、過去のメールです。POPで取り込んだメールは各パソコンの中にしかありません。古いアカウントを安易に削除すると、そのパソコンに溜まっていた過去のメールごと消えます。切り替えるなら、既存のPOPのアカウントは残したまま、IMAPのアカウントを追加する形にしてください。今回、サーバー側の転送を選んだのも、この「過去メールに触れなくて済む」という点が大きかったからです。
(PR)代表アドレスを自分たちで管理できるメールサーバー
今回の自動転送は、レンタルサーバーの管理画面から設定しました。会社の独自ドメインでメールを運用していると、転送先の追加やIMAPへの切り替えを、自分たちの判断と管理画面の操作だけで済ませられます。プロバイダのメールアドレスを業務で使っていると、こうした設定の自由度が低いうえ、回線を乗り換えるたびにアドレスが変わります。独自ドメインでメールを持つときの考え方は、会社のホームページを持つとき、最初に決める3つにまとめています。独自ドメインのメールが使えるレンタルサーバーの候補を挙げておきます。
どのサーバーでも、メールの転送設定やIMAPの利用はできるのが普通です。選ぶときは機能の多さより、社内の誰が管理画面を触れるかで決めてください。
まとめ
- 「同じアドレスなのに、片方のパソコンにだけ一部のメールが届かない」は、POPで複数台受信しているときの典型的な症状
- POPは各パソコンがメールを持ち帰る方式。「サーバーに残す」設定にしても、台数が増えると取りこぼす
- 直し方は、サーバー側の自動転送か、IMAPへの切り替え。今回は過去メールに触れずに済む自動転送を選んだ
- 切り替えるときは、過去のメールが各パソコンの中にしかないことを忘れずに。古いアカウントをいきなり消さない
- 代表アドレスを3台以上で受けるなら、最初からPOP以外の構成にする
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