事務所で「1台だけネットが遅い」「1台だけインターネットにつながらない」というご連絡をいただくことがあります。ほかのパソコンもスマートフォンも普通に使えているのに、その1台だけ調子が悪い。利用されている方はたいてい「このパソコンが古いから」「そろそろ壊れるのでは」とおっしゃいます。
ですが実際に伺ってみると、パソコンの故障ではなくネットワーク上の「住所」がぶつかっていた、あるいは住所を受け取れていなかったというケースが少なくありません。最近も同じ根っこの案件が続けて2件ありましたので、現場で何を見て、何をしたのかをまとめておきます。
パソコンの「住所」とは何か
社内のネットワークにつながっている機器には、1台ずつ番号が割り当てられています。IPアドレスと呼ばれるもので、郵便の住所だと思っていただくと分かりやすいです。データはこの住所を頼りに届きます。
住所の配り方は2通りあります。ひとつはルーターが自動で配る方式。もうひとつは機器ごとに手で決めて固定する方式です。ふだん意識することはありませんが、トラブルはたいていこの2つの境目で起きます。
住所が正しく決まらないと、機械としてはつながっているように見えても、通信は成立しません。ランプは点いていて、ケーブルも刺さっていて、それでもインターネットには出られない。この「見た目は正常なのに使えない」状態が、利用者の方を一番困らせます。
ケース1|Wi-Fiの1台だけが遅い・途切れる
最近あったのは、社内のノートパソコン1台だけ「インターネットがかなり遅い、途切れる」という案件です。Wi-Fiの電波は十分に届いていて、ほかの機器は問題なく使えていました。
遠隔でパソコンの記録(Windowsのイベントログ)を確認したところ、「このIPアドレスは別の機器と重複しています」という警告が、丸一日で17回記録されていました。相手側の機器を示す番号は毎回同じものでした。
このパソコンには、以前の担当者が設定したと思われる固定の住所が入っていました。ところが、その住所はルーターが自動で配る範囲の中に含まれていたのです。つまり「予約席に座っているつもりが、その席をルーターが別のお客さんにも案内していた」状態です。
相手の機器を示す番号の形から、おそらくその日に新しく社内Wi-Fiへつないだスマートフォンなどだろうと推測できました。実際、警告が出始めた時刻と、通信が遅くなり始めた時刻は一致していました。
面白いのは、遅い・途切れるといってもずっと切れているわけではない点です。警告が出ていない時間帯に速度を測ると、まったく正常でした。住所がぶつかった瞬間だけ通信が止まり、やり直しになる。だから利用者の体感は「速いときもあるけれど、ときどき固まる」という、一番説明しにくい症状になります。
ケース2|朝だけ1台がつながらない
もう1件は、朝出社したら特定の1台だけインターネットにつながらない、というものでした。ほかのパソコンとWi-Fiは正常。利用者の方は、再起動、USB機器を全部外して1つずつ挿し直し、LANケーブルの抜き差しまで試されていましたが、直りませんでした。
接続状況を確認するコマンド(ipconfig)を実行してもらうと、そのパソコンの住所が「169.254」で始まる番号になっていました。これはWindowsが「ルーターから住所をもらえなかったので、とりあえず自分で仮の番号を名乗っている」ときに出るものです。この番号が見えた時点で、原因はほぼ「住所をもらえていない」に絞れます。
この現場では、直前にリモート接続用のソフトを導入していました。Windowsの診断機能がそのソフトの仮想的な接続を「既定の接続先」として表示したため、当初はそちらを疑いました。しかし住所の確認結果を見て、有線の接続そのものが住所をもらえていないと分かり、ソフトは原因ではないと判断できました。導入直後の変更点はどうしても疑いたくなりますが、確認する順番を間違えると遠回りになります。
その場は住所を手で設定して復旧させ、その後に自動取得へ戻したところ正常に動きました。ただしこれは暫定処置です。以前にも「朝だけつながらない日が数日続き、ハブ側のケーブルを抜き差ししたら直った」という履歴があったため、LANケーブルかハブの差し込み口の接触が不安定になっている可能性が高いと考えています。次回の訪問でケーブル交換とポートの変更を行う予定です。
住所が決まらない3つの型
これまでの経験では、だいたい次の3つに分かれます。症状の出方が違うので、伺う前の電話でもある程度あたりが付きます。
| 型 | 症状の出方 | まず見るところ |
|---|---|---|
| 住所がぶつかっている | つながるが、ときどき止まる・遅い。1台または2台 | その機器が固定の住所になっていないか |
| 住所をもらえていない | まったくつながらない。朝や再起動後に多い | 住所が「169.254」で始まっていないか |
| 住所を配る機器が2台ある | 複数台が不安定。日によって症状が変わる | 後から増えた機器・持ち込み機器がないか |
3つめは、以前に別の現場で経験しました。本来は1台だけが住所を配る役目を持つべきなのに、あとから足した無線の機器がルーターとして動いていて、住所を二重に配っていたというものです。記録には、住所の割り当てが何度もやり直されたり、拒否されたりした跡が残っていました。この型は1台だけでなく複数台が不安定になるので、「みんな時々おかしい」と言われたら疑います。
現場でやること(順番)
- ほかの機器が正常かを確認する。ほかが正常なら、回線そのものとルーター本体はいったん白と考えてよい。ここを確認せずに回線業者へ連絡すると、時間だけが過ぎる。
- 該当機器の住所を確認する。Windowsなら
ipconfig。「169.254」で始まっていれば住所をもらえていない、それ以外なら受け取れてはいる、と切り分けられる。 - 固定の住所になっていないかを見る。手で設定された住所が残っていて、それがルーターの配る範囲と重なっていれば、ぶつかる条件がそろっている。
- 記録(イベントログ)に重複の警告がないか確認する。「遅い」という体感を、いつ何が起きたかという事実に置き換えられる。
- 症状が出た時刻に何があったかを聞く。新しく持ち込まれた機器、増設した無線、入れたソフト。時刻が一致するものが手がかりになる。
- 配線を疑うのは最後ではなく、途中で。特に「朝だけ」「抜き差しで直る」という履歴があるときは、ケーブルとハブの差し込み口を別の場所に替えて様子を見る。
設定を変える前に、今の状態を書き出して保存しておくことも忘れないでください。私は変更前の設定を必ずファイルに残してから作業します。元に戻せる状態を作っておかないと、直らなかったときに二重の問題を抱えることになります。
同じことを防ぐには
固定の住所は「ルーター側で予約」する
プリンターや複合機、NAS、監視カメラのように住所を変えたくない機器はあります。そのときに機器側で固定してしまうと、ルーターは「その住所が使われている」ことを知りません。ルーターの設定画面で、その機器に対してこの住所を渡す、という予約をしておくのが本来のやり方です。機種によって呼び方は違いますが、たいていのルーターにこの機能があります。
配る範囲と固定に使う範囲を分ける
どうしても機器側で固定するなら、ルーターが自動で配る範囲の外の番号を使います。ケース1で起きたことは、まさにこの分離ができていなかったために起きました。範囲の区切り方は機種や事業者の設定で違うので、ルーターの説明書か導入業者の案内を確認してください。
機器を増やすときに一声かけてもらう
電波が弱い場所に無線の機器を足す、というのはよくあることです。ただ、その機器が「住所を配る側」として動いてしまうと、社内全体が不安定になります。機器そのものは悪くなく、設定がひとつ違うだけです。ネットワークに機器を足すときだけは、保守を任せている業者に一声かけていただくのが、結果的に一番安く済みます。
「朝だけ」はパソコンの起動設定も疑う
朝の最初の1回だけ失敗する、という症状は、パソコンの省電力設定や高速起動の設定で、起動時にネットワーク部分がうまく初期化されないことでも起こります。配線を見直しても改善しないときは、この2点も確認の対象に入れます。
まとめ
- 「1台だけ遅い・つながらない」は、パソコンの故障よりもネットワーク上の住所の問題であることが多い
- ときどき止まるなら住所の重複、まったくつながらないなら住所を受け取れていないを先に疑う
- 住所が「169.254」で始まっていれば、上位のソフトや回線を疑う前に住所をもらえていないと確定できる
- 固定したい機器は、機器側ではなくルーター側で予約する
- 暫定処置で直っても、根本の原因(配線・ハブ・設定範囲)が残っていれば必ず再発する
事務所全体が遅い場合は、また別の見方が必要になります。そちらは事務所のネットが遅い。ルーターを買う前にやる切り分け手順にまとめました。パソコン1台の動作そのものが重い場合は「パソコンが重い」と言われたとき、現場で最初に確かめることもあわせてご覧ください。
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